
最近考えていること
近況
「 文化芸術生存論」を研究する
2025年より京都大学大学院に在学し、「 文化芸術生存論」について研究を始めました。これまで、ゲーム音楽オーケストラの経営・プロデュースや、文化・芸術領域のイノベーションファームの経営に携わるなか、文化・芸術を社会のなかで成立させる経験や、それを持続させる上での課題と数多く相対してきました。
とりわけ印象的であるのは、文化と経済の関係です。それは文化・芸術分野を限定しない課題であり、文化・芸術の生存に大きな影響を及ぼします。現代社会において、文化・芸術の生存には経済的合理性や持続性のある経営が要される一方で、当然、文化・芸術には経済的尺度だけでは図りきれない膨大な情報を有しています。
音楽、美術、芸能、伝統文化などあらゆ文化・芸術に通底する問いとして、いかにして成立、持続、生存するのかを問う「 文化芸術生存論」に関心を持ちました。現場の実践と理論の往復を通じて、その生存についてを広い視野から捉え直して、研究しています。
仮説
「文化芸術階層」6つの階層
文化・芸術は、文化経済学者デイヴィッド・スロスビーが指摘するように、経済的価値と文化的価値の二つの側面を併せ持ちます。とりわけ後者は、現在の市場メカニズムや経済合理性の枠組みのみでは扱いきれず、そのことが文化政策・文化経営・芸術実践の現場における文化と経済の緊張関係を生む一因となっています。
この背景には、文化・芸術が制度や市場の水準だけで成立しているのではなく、物質的・生物的・認知的・技術的な複数の情報の相互連関のもとで成り立っていることがあります。そこで、文化・芸術を俯瞰し、宇宙・地球・生命・精神・技術・デジタルという六つの層による情報の相互関係として整理する「文化芸術階層」を提唱し、検証しています。これは、文化・芸術を単線的に定義するためではなく、相互連関する層のもとで成立する複合的現象として捉え、その存立条件と持続条件を考察するための仮説的視座です。

最近興味があるテーマ
文化・芸術の生存や生命について
自然科学的な物質上のことと文化・芸術の構造について
文化・芸術における
対象物質とその構造の影響
文化・芸術は精神的・象徴的・技術的な営みとして語られがちですが、実際にはつねに具体的な物質基盤の上に成り立っています。絵具や支持体の化学的性質、楽器や声の物理的構造、建築や舞台空間の力学的条件など、素材・媒体・身体・環境の特性は、表現形式、作品構造、制作方法に深く関与しています。
たとえば、彫刻は素材の重量、強度、耐久性、加工性といった条件に左右されやすく、それらは作品の形態のみならず、保存、輸送、展示のあり方にも影響を及ぼします。これに対し、音楽や音響表現は時間の経過とともに消失する性質をもつため、継承や反復のためには楽譜、録音、デジタル記録などの保存媒体が重要な役割を果たしてきました。
こうした差異は、単に表現上の特徴にとどまらず、流通形態、再現可能性、制度設計のあり方にも接続しています。近年は、文化・芸術を観念や意味だけでなく、それを支える物質的条件との相互作用として捉え直すことに関心があり、情報をまとめています。
鑑賞者が文化・芸術で担う役割、またその技術について
文化・芸術における
鑑賞者とその鑑賞技術、その影響
文化・芸術の価値は、創作者の内部だけで完結するのではなく、受け手による理解、解釈、評価、記憶、共有といった実践を通じて、社会のなかで可視化され、共有され、定着していきます。したがって鑑賞は、単なる受動的な受容ではなく、知識、経験、感覚、比較能力、文脈理解などを含む実践として捉える必要があります。
たとえば、古典芸能や伝統音楽においては、様式や再演の歴史への理解の有無によって、同じ上演であっても受け取られる意味や価値が大きく異なり得て、美術においても、技法、時代背景、素材、展示空間への理解が、作品の受容のあり方や解釈の幅を左右します。
このように、鑑賞者の実践は作品の価値を既存のものとして受け取るだけでなく、その意味を社会的に成立させ、更新し、批評や教育、共有の過程を通じて継承にも関与しています。さらに、こうした鑑賞の蓄積は、批評、教育、支援、共同体形成などを通じて、文化・芸術の持続条件にも接続しています。近年は、文化・芸術を支える条件として、創作や表現だけでなく、それを受け取り、解釈し、価値づける鑑賞実践の構造や技術にも関心があり、情報をまとめています。
文化・芸術を「情報」として捉えた時の人類とAIの差異について
文化・芸術における人類とAI
創造・表現・鑑賞行為の差異
文化・芸術をめぐる近年の大きな変化の一つは、作品や表現がデータ化・記号化され、AIが画像、音楽、文章などを高度に生成するようになったことです。こうした状況のなかで、身体性、経験、有限性、さらには意図や目的をめぐる構造を含む人間の創造・表現・鑑賞の実践と、大規模データと統計的学習に依拠するAIの生成過程とのあいだに、どのような連続性と差異があるのかは、文化・芸術を考えるうえで重要な問いになっています。
たとえば、様式、構成、語彙、パターンといった水準では、人間とAIの生成物は一定程度比較可能である一方、制作に至る身体的経験、時間の不可逆性、訓練の蓄積、個別の生の履歴といった条件は、人間の表現の成立条件を特徴づけている可能性があります。また、AIによる生成物も、それ自体で価値が確定するわけではなく、受け手による解釈、評価、選択、文脈化の過程を通じて文化的な意味を帯びていきます。
近年は、文化・芸術を情報として捉えることで見えてくる構造と、それだけでは十分に捉えきれない身体性や経験の次元との関係に関心があり、人類とAIの差異についての情報をまとめています。